症例検討会

第6回研修医症例検討会

福井赤十字病院 第6回研修医症例検討会を開催しました。

初回は初期研修医2年目 南出 莉里佳 先生が『研修医とともに学ぶ非専門医/医療スタッフのための女性の腹痛診療』の演題で発表しました。

複数診療科の医師、コメディカル計31名が参加されました。テーマに関する専門医として、産婦人科 山本 真 先生に御指導頂きました。症例選定および全体の構成などについてはリウマチ・膠原病内科/腎臓内科 鈴木が継続して担当しております。

「非専門領域における達成目標は学生、研修医、指導医全て同じ」というコンセプトのもと、参加者全員が今回のテーマの専門医から学びました。

カンファレンスは3部構成で、1. 症例プレゼン、2. 教科書等のまとめ、3. 専門医への質問で進めました。

はじめに南出先生から自身が経験した骨盤内炎症性疾患(PID)の症例について簡単な提示がありました。救急外来から産婦人科へコンサルトし、経腟エコーで子宮頸部左側に著明な圧痛があったこと、抗菌薬投与後に改善したことからPIDと臨床診断された経過でした。スムーズな連携が取れたように見えましたが、CTなしで相談したことについて救急医からの指摘、PIDの診断について産婦人科医間での疑義が挙がりました。

次いで産婦人科領域の腹痛について、妊娠反応の有無、月経周期との関連で鑑別が変わること、性交渉歴や月経歴の聴き方に関するtips、またPIDの診断基準を含めた一般事項を整理されました。

専門医への質問を通して、特に強調されたことは「虫垂炎ではない、異所性妊娠ではないことを確認した先に初めてPIDを考える」という点でした。(以下、運営側からの私見)専門医に負担をかけないことを目的として、出席頂く指導医の先生方にはスライド作成を求めず、口頭で普段の診療についてフリーで話してもらっています。無理せず持続できるように、と実務上のメリットを考えてこのような形式でお願いしているのですが、口頭でのコメントだからこそ専門医にしか語れない、表面的ではない知識を共有できていると感じています。余談ですが、司会者としてPIDに関する上記のコメントを伺って想起したのは、リウマチ・膠原病内科医として発熱症例に対峙する際「感染症、悪性腫瘍の評価と治療を優先した先に、膠原病を考える」という発想でした。教科書にリスト化されている鑑別診断は同列ではなく、必ず優先順位があります。「2日前からの発熱+顔が赤っぽい」20歳代女性に、初手からSLEを考えるのは臨床的な感覚には合いません。圧倒的に感染症の頻度が高いセッティングのはずなのですが、SLEが浮かんでしまった非専門医により膠原病内科へ緊急コンサルトされてしまう場合があります。臨床感覚を専門医が言語化する意義は大きいと考えます。

フロアからはPIDに対する抗菌薬の使い方について質問がありました。起炎菌不明の場合もある一方、サルモネラの血行性感染もあり得るようで、感染症専門医からみてもempiricには広域抗菌薬を選択せざるを得ない疾患とのことでした。

次回からは聞き方を工夫する予定ですが、今回も山本先生へ産婦人科を選択した理由ややりがいについて伺ってみました。手術がしたい、かつ「絶対に役に立つ専門」へ進みたい、そして同期と進路が重なりそうだった時には人が少ない方を選択したとのことでした。判断の軸が人によって様々で興味深く聞きました。役に立つかどうか、というのはおそらく他人からの評価がやりがいに繋がるという基準ではないかと想像しました。一方で、筆者は自分自身の価値基準を軸に考えることが多く、飽きずに続けられる見通しが立つこと、所属する医局の中で(自分が)人間関係を構築できるかどうか、といった点を重視した記憶があります。

研修医にとっても、多くが非専門医である指導医にとっても、各診療科の魅力をアピールして頂ける機会にもなっていると考えますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

別紙に過去のカンファレンスにおけるテーマと参考図書を記載しています。今回は『女性の救急外来 ただいま診断中! 』を提案しました。月経歴・性交渉歴の聴き方を含め、女性の診療全般に役立つ内容が基本的なところから解説されています。ちなみに、『ただいま診断中!』シリーズは研修医にお勧めで、多くの方が持っているだろう坂本壮先生の『救急外来』は御法度と並ぶ売れ行きではないかと勝手に想像しています。ほかに『内科初診外来』、『はじめての内科病棟』は書き手の能力が高く素晴らしい内容でしたし、読んでいませんが『呼吸器内科』も長尾大志先生なので間違いなく面白いはずです。

1年目研修医の先生方もカンファレンスの意図がわかってきたでしょうか。議論された内容について、5分でも良いので自分でも調べて確認することを繰り返してみて下さい。ほんの少しの積み重ねが大きな差になっていくと思います。

文責:リウマチ・膠原病内科/腎臓内科、研修推進部会 研修医養成プロジェクトメンバー、ワーキンググループ 鈴木 康倫

関連記事

TOP