福井赤十字病院 第7回研修医症例検討会を開催しました。
初回は初期研修医2年目 田中 和城 先生が『研修医とともに学ぶ非専門医/医療スタッフのための創傷治療』の演題で発表しました。
複数診療科の医師、コメディカル計35名が参加されました。テーマに関する専門医として、形成外科 加古 絢子 先生に御指導頂きました。症例選定および全体の構成などについてはリウマチ・膠原病内科/腎臓内科 鈴木が継続して担当しております。
「非専門領域における達成目標は学生、研修医、指導医全て同じ」というコンセプトのもと、参加者全員が今回のテーマの専門医から学びました。
カンファレンスは3部構成で、1. 症例プレゼン、2. 教科書等のまとめ、3. 専門医への質問で進めました。
はじめに田中先生から自身が経験した手指外傷の2症例について提示がありました。次いで、創と傷の違い、創傷処理(局所麻酔の使用)と創傷処置の違い、麻酔・洗浄/消毒・縫合・ドレッシングについてのポイント、破傷風予防など整理されました。
専門医への質問では、救急からコンサルトすべき緊急病態として切断指、小児の眼窩骨折(外眼筋が骨折面にロッキングされてしまう)、広範囲熱傷などを挙げられました。電話相談の際には、受傷機転や皮膚の色などを含めてイメージできるよう伝えるようにとの要望でした。
形成外科を志望した最初のきっかけは学生講義だったとのお話でした。講義や実習という方法に関わらず、また学生や初期研修医という立場に関わらず、初めて診療に触れる瞬間というのは後々まで強い印象が残ると思います。改めて現場での教育に責任を感じた次第です。誰でも手術はできるようになる、という言葉は印象的でした。学生・研修医は何者にでもなれます。1万時間の法則などと俗に言われますが、正しい努力を続ければ手術でも研究でも平均的なレベルまではできるようになるでしょう。
研修医にとっても、多くが非専門医である指導医にとっても、各診療科の魅力をアピールして頂ける機会にもなっていると考えますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
参考図書として、『創傷治療ハンドブック(三輪書店 2021年)』を挙げました。きずは消毒するな、というメッセージを著者の本や動画で学び、研修医なりに救急外来で外傷に対応する際役立ちました。写真も豊富で非常にわかりやすい本だと思います。
(以下私見です) 内科医の自分にとっては、学生時代から手術するということが全く想像できず、何かの技術を極めるというテーマが個人の特性としておそらく向いていなかったのではないかと思います。既に内科医になってしまったので後付けの理屈かもしれませんが、個人の特性が仕事の内容に影響を与えるのではないかと考えています。最近、大腸癌手術のエキスパートになっている大学部活の同期と話しました。彼はスポーツの上達に関して戦略的で、練習の度に課題設定していた印象がありました。手術の修練という点でも似た側面があるような気がします。彼らしいやり方で上達してきたことが容易に想像できました。ちなみに手術上達のコツについて聞いてみたところ、「目と手と頭の3つを養うこと」と教えてくれました。術前は1時間以上も画像とにらめっこして作戦を立て、術後はビデオを確認しながら次回に向けたポイントをノートに記録してきたそうです。予習・復習も重要だと思います。
”特性”というのは学生・初期研修医にとって「自分は○○のタイプだから△△ができない」のように可能性を制限する意図はありません。前述した通り、専門医を取得するといった平均的なレベルまでは適切な環境で努力すれば誰でも必ず到達できると思います。専門医を取った後で学会や医局を広く見回してみると初めて気付くのですが、同じ診療科の中でも極めて多様な選択肢があり、”その先”が存在します。それらの選択肢から自分の特性に合ったものを前向きに探していけば良いと思います。診療、研究、教育などに様々な立場で関わってみた結果、もし続けられそうなことがあれば、それが自分の強みや得意なこと、すなわち特性と親和性が高いものかもしれません。自分の感覚として、頑張らなければ実現できないことは特性と合わない可能性があります。「他人からみたら努力しているように見えるけれども、当人はそう思っていない状態」が理想的で、特性に合っている状態ではないかと最近考えています。例えばゲームをしたら褒められる世界があったとして、自分が思わず熱中して3時間続けてしまった時に周囲から「3時間も頑張ったの?すごいね!」と言われても当人はピンとこないはずです。このように凝っている、趣味的な取り組みが仕事に繋がり、他人からは評価されるとすればhappyなのではないでしょうか。
個人的な話で恐縮ですが、シェーグレン症候群からシェーグレン病へ病名変更することを発表した論文の隅にSuzukiの名前を載せてもらっていることを会の冒頭で紹介しました(Nat Rev Rheumatol. 2025 Jul;21(7):426-437.)。International task forceなるものに入れて頂いている理由は、決して研究業績を挙げたからではありません。シェーグレンの臨床研究論文で何とか大学院を卒業できましたが、研究活動、そして論文を書くということが自分の特性には全く向いていないと感じました。その代わりに、能力が要らず誰でもやればできることをしつこく続ける、という点では強みがありそうです。例えば学会・研究会へ行く度に演者に話し掛ける、という行動を学生時代から続けています。海外の方や、大学教授に対してはもちろん緊張しますが、名刺交換するか著書を持参してサインをもらうという名目を作れば難しいことではありません。シェーグレンに関しては国際学会でヨーロッパトップの先生に「サイン下さい」と話し掛け、顔見知りになったことで後にSjogren Big Data Projectという国際コホートへ誘われて当初は唯一の日本人として参加し、現在も当院としてデータ登録しています。この流れを受けて「syndrome vs disease」どちらかに投票せよ、というメールが唐突に届き、回答したという経緯です。
計画的偶発性理論という概念があります。偶然と言えば偶然ですが、計画的に呼び込んだとも言えるでしょう。全く次元の違う話ですが、スティーブジョブズの有名なスピーチである「connecting the dots」とも繋がるように思います。後から振り返ってみると、その時は考えてもみなかった点と点が繋がるキャリアが創られているかもしれません。10年後のキャリアを正確に狙い定めることは難しいと思いますが、自分自身の特性に即して目の前のことに取り組み続ける結果、いつの間にか高いところに辿り着いていた…となることを期待します。
文責:リウマチ・膠原病内科/腎臓内科、研修推進部会 研修医養成プロジェクトメンバー、ワーキンググループ 鈴木 康倫