症例検討会

第5回研修医症例検討会

福井赤十字病院 第5回研修医症例検討会を開催しました。

初回は初期研修医2年目 川田 剛広 先生が『研修医とともに学ぶ非専門医/医療スタッフのためのめまい診療』の演題で発表しました。

複数診療科の医師、コメディカル計33名が参加されました。テーマに関する専門医として、脳神経内科 山中 治郎 先生に御指導頂きました。症例選定および全体の構成などについてはリウマチ・膠原病内科/腎臓内科 鈴木が継続して担当しております。

「非専門領域における達成目標は学生、研修医、指導医全て同じ」というコンセプトのもと、参加者全員が今回のテーマの専門医から学びました。

カンファレンスは3部構成で、1. 症例プレゼン、2. 教科書等のまとめ、3. 専門医への質問で進めました。

はじめに川田先生から自身が経験した小脳虫部梗塞の症例について簡単な提示がありました。立位または座位になると”ふらつく”、頻回嘔吐が主訴で歩行不能であったことから頭部MRIを施行されて診断に至りました。(以下、鈴木コメント)多くの患者さんは救急搬送され、体動困難でもあるためストレッチャーで臥位のまま診察します。指鼻指試験で四肢失調を確認しても体幹失調を評価できていないことを認識すべきで、「めまい・ふらつきが主訴の方は歩けることを確認するまで帰してはいけない」という教えは極めて重要だと考えます。個人的にも頻回の嘔吐だけが主訴だった方で、最後まで小脳虫部の梗塞を鑑別に残しMRIまで繋ぐことができた症例を2例は経験しています。

次いで中枢性の鑑別を中心に、研修医・非専門医の立場から理解できる範囲でめまい診療についてまとめて頂きました。ATTESTアプローチと呼ばれる方法(J Emerg Med. 2018;54(4):469-483.)(Associated symptoms, Timing and Triggers, bedside Examination Signs)を紹介し、特にHINTS法について解説されました。非専門内科医としてはHINTSは難易度が高くマスターするのを諦めていますが、研修医の先生方は是非動画を繰り返しみながらトライしてみて下さい。

脳神経内科 山中先生からは、めまい・ふらつきといった主訴で受診した場合の実際の診察についてコメントして頂きました。最重要点は、脳梗塞が鑑別に挙がることから最終健常時間を確認することです。病歴からonsetが急性発症であると予測できるかどうか、数時間~1日かけて緩徐に症状が完成したのではないかどうかを確認することを強調されました。歩容については難しい場面も多いですが、付き添ってきた家族と一緒にみてもらう方法も提案頂きました。

その他、フロアからも適宜質問頂きました。最後に、司会の個人的な思い付きで恐縮でしたが「何故脳神経内科医を専攻したのか?」「脳神経内科医としてのやりがいや現在の専門領域など」について伺ってみました。本カンファレンスには毎回専門医の先生をお呼びしており(別紙参照)、平時の診療についてコメントをお願いしています。研修医にとっても、多くが非専門医である指導医にとっても、各診療科の魅力をアピールして頂ける機会にもなっていると考えますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

冒頭でカンファレンスの意図について簡単にコメントしました。経験した症例から学ぶ方法・振り返り方(on the job)のモデルを示しているつもりです。一方で、例えば神経診察の方法と解釈、血液ガスの読み方、抗菌薬の種類などはoff the jobで時間をかけて系統的に学ぶ必要があると思います。

・コラム 臨床力について―基本的臨床能力評価試験を含めて―

今回は初期研修中、壁にぶつかる方が多いと思われる脳神経内科領域を扱いました。非専門医にとって診療領域としての最低限の目標は系統的な神経診察の型がスムーズにできることと思います(私見です)。今回はめまいがテーマということでもう少し踏み込んで『症状や所見からアプローチする めまいのみかた(メディカル・サイエンス・インターナショナル 2020年)』を買ってみましたが、早々に挫折し…背伸びし過ぎました。読みやすいことを期待して『神経症状の診かた・考え方―General Neurologyのすすめ 第3版(医学書院 2023年)』を見たところ、序章に「臨床力とは何か?」とあり大変素晴らしい内容でした。公開されているので、是非以下のQRコードから御覧下さい。

「臨床力とは何か?」というテーマについて、個人的にもずっと考えてきました。何となく伸ばしたい・高めたい対象ですが、「何か」と聞かれたら曖昧ではあるものの「雰囲気から感じ取られるもの」と答えます。スポーツを少しでもやったことのある人ならわかると思いますが、大会に行って通り掛かった人が強いかどうかは見るからに感じ取れなかったでしょうか。医師同士であれば、臨床ができるかどうかはそのような感覚です。カルテを一見したり、少し話しただけである程度わかると思います。医師からみた看護師やその逆、他職種に対しても同様の感覚を持っています。

本カンファレンスを続けていて、救急外来というセッティングが話題になることが多く、『救急外来診療のフレームワーク ~簡単に帰してはいけない患者 Bounce-back Admission事例分析の極意~(中外医学社 2025年)』を読みました。本文中ではBBAという略語が用いられ、思わずネットスラングが浮かんでしまいましたが、一見して著者がどれ程真摯に臨床と向き合ってきたかが感じられました。すごい本です。内容が濃いため時間はかかりましたが、一気に通読してしまいました。自分自身の経験と照らし合わせながら読む必要があるため、研修医の先生方には読みづらいかもしれませんが、著者が症例を丁寧に経験してきた過程が描かれており大変刺激を受けました。

研修医の先生方は、毎年冬に基本的臨床能力評価試験という全国規模のテストを受けることになっています。臨床力という得体の知れないものを一応は数値化できる指標と考えられそうです。80問で、内訳は総論 8、内科 40、外科 8、小児科 4、産婦人科 4、精神科 4、救急 12問からなり、英語問題が8題含まれます。全国平均は大体55%で、意外にも1年目と2年目の点数に大きな差はありません。鈴木は個人的に3年連続で問題を後から見て解いてみており、平均85%ほど取っています。本試験のホームページには「基本的臨床能力評価試験(GM-ITE®︎)は研修目標の到達度を評価する試験です。正確な評価のために、試験対策の勉強をしないことをお勧めします。」と受験者側としては戸惑うようなメッセージが記載されています。卒後約20年で、膠原病・腎臓という比較的幅広い診療をしてきた内科医が準備なしにこれくらいの得点率で、かつ3年通して点数に大きなブレはありませんので、一応は信頼性の高い試験なのかもしれません。この試験のデータを用いて様々な解析をした論文が既に複数発表されています。

研修医の正答率を問題別にみると、6%~97%と非常に差が大きいです。論文のabstractのような情報を元にデータの解釈を問うなど極めて臨床的な問題もあれば、キーワードを繋げるだけで正答できてしまう国家試験的な問題、一方で専門医試験に近い内容で解説を読んでも「絶対無理」と思われる問題もあります。この試験で高得点を取れることが臨床能力の高さを反映するかどうかはわかりませんが、今のところ研修医にとっては1つの指標とは言えそうです。

本試験について「【識者の眼】「研修医の働き方改革⑧─GM-ITE成績優秀者の研修生活の特徴」西﨑祐史」という記事があり、興味深く読みました。以下引用「まず初めに、自分が進もうとしている診療科以外を積極的にローテーションし、そこから多くのことを学ぼうとする姿勢がある。また、経験症例を通じて学習している。特に、成績優秀者に共通していた特徴としては、経験症例をメモとして残し、繰り返し振り返ることで知識を定着させている点であった。」とあり、大変共感しました。キーワードは振り返りです。

鈴木の知人で、國松淳和先生という自称医書書きの方が最近『國松の内科学(金原出版 2025年)』というタイトルで1700ページの単著を出されました。多くの著書があるので御存知の方がいらっしゃるかもしれません。この方は初期の著作である『内科で診る不定愁訴』を読んだ瞬間に臨床力が高いことを感じ取り、以後本が出る度に買い続けています。ひょんなことから知り合いになり、ここ数年はリウマチ学会で鬼ごっこと称して私が捕まえに行くのが恒例になりました。國松先生の元々の専門は膠原病ですが、内科の全分野に渡って経験に基づく記述が可能というのは全くもって謎であり、「どうやっててんかんも白血病も副腎不全も、自分の言葉で語れるようになるくらいの数を経験してきたのですか?」と直接聞いてきました。この質問はほぼ「臨床力を高めるには?」と聞くのと同義であり、長くなるので省略しますが、やはりキーワードは症例の振り返り方にありました。経験の量も大事ですが、質、すなわちどれだけ深く振り返って次の症例に生かす学びを得るか。レベルは全く及びませんが、この点に関して國松先生と大いに共感してきました。

余談ですが、鈴木もこの春に『非専門医のためのシェーグレン症候群診療〈ふだんの外来で見逃さない!〉(日本医事新報社 2025年)』というタイトルで電子書籍を出版しました。当院で立ち上げて4年目となるリウマチ・膠原病内科外来において、専門であるシェーグレン診療の現状をそのまま書いた内容ですが、医学書を多く書いてきた國松先生から「やばい」「まじで素晴らしい」「國松賞あり得る」と具体性に欠けるもののお褒めの言葉を頂き、臨床を頑張っていると文面からも伝わるものだと感じました。

この機会に「臨床力」「臨床能力」で検索してみましたが、現場で重要視されている割にはあまり多くは見当たりませんでした。1件、読むために無料の会員登録が必要ですがジェネラリストnaviというサイトに個人的に御世話になっている天理よろづ相談所病院 総合内科部長である八田和大 先生による「臨床力とは」という記事を見付けましたので添付します。八田先生は膠原病全般、特に脊椎関節炎が詳しく学会講演などでいろいろと教えて頂きました。講演では紙芝居のように移り行く100枚以上のスライドが印象的で、さぞや多くの症例経験があるのだろうと感じていましたが、やはり多くを診ることの重要性が語られていました。

 結局、臨床力を高めるにはどうしたら良いか?私自身、卒後20年経ってもわからないことばかりで明確な答えは持ち合わせていません。ただし、少なくとも経験した症例を適切に振り返ることは重要な要素の1つであるとは言えそうです。研修医の頃、症例から学ぶモデルとして最初に参考にしたのは、研修御法度の青本でした。まずは経験した症例を丁寧に記録することから始めると良いでしょう。その際、「この時こう考えていた」「振り返るとこうすれば良かった」といった”気持ち”もメモしておくと記憶へ強固に刻まれると思います。國松先生と強く共感したのは、「学生や研修医の頃に診た症例って細部まで忘れないですよね」という点です。それだけ何度も深く振り返ったからだと考えます。

最後に、『神経症状の診かた・考えかた』にあるFisher症候群のCharles Muller Fisher先生による17のルールを転記します。言うは易く行うは難し、研修医の早い時期に「自分はこうする」という型を決め、続けられれば必ず臨床力は伸びていくと思います。

  1. ベッドサイドは君の研究場所だ。患者から真剣に学びなさい。
  2. ベッドサイドで課題が生じたら,すぐに決着をつけるようにしなさい。
  3. 仮説を立てなさい,そして正しいと受け入れる前に,反証するようにあるいは例外を見つけるように精一杯努力しなさい。
  4. いつも1つかそれ以上の臨床研究のプロジェクトを進めなさい:そうすると日々のルーチンがもっと意味深くなる。
  5. 臨床診断に到達しようとする時には,その疾患の5つの最もよくみられる特徴(病歴上,身体診察上,検査上)について考えなさい。もし5つのうち少なくとも3つがなければ,その診断は間違っているらしい。
  6. なるべく量的に,正確に記載しなさい。
  7. 症例の詳細は重要である。その分析によって,とりあえず修業が済んだばかりの人とエキスパートを分ける。
  8. 出会った現象を集めて分類しなさい:それらの機序や意義は,後に十分な症例が蓄積されたときにより一層明らかになるだろう。
  9. 聞いたことや読んだことは,自分自身で納得した時だけ完全に受け入れなさい。
  10. 自分自身の過去の経験と他人(文献や経験があり尊敬できる同僚)のそれらから学びなさい。
  11. 講義や講演する人は教訓的な話し方をするのがよい。よく聴き,質問し,提示することで他人にうまく教えることができる。
  12. 論文を多くかつ入念に書きなさい。あなたの仕事やアイデアから他の人に学んでもらいなさい。
  13. 知られている疾患や診断をもつ患者たちの特異な詳細に注意を払いなさい;そうすれば後になってよく似た現象が他の症例にみられる時に役立つだろう。
  14. よい聞き手でありなさい;初心者の口からも鋭い知恵が発せられることがある。
  15. 不十分な検討のままで症例をあまり合致しないとりあえずの診断で済ませる誘惑には抵抗しなさい。
  16. 患者というのはいつも自分のできる最善を行っている。
  17. 人間としての患者に対し強い興味をもち続けなさい。

文責:リウマチ・膠原病内科/腎臓内科、研修推進部会 研修医養成プロジェクトメンバー、ワーキンググループ 鈴木 康倫

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