福井赤十字病院 第10回研修医症例検討会を開催しました。
初回は初期研修医1年目 陶守 海斗 先生が『研修医とともに学ぶ非専門医/医療スタッフのための消化管出血診療』の演題で発表しました。
複数診療科の医師、コメディカル計21名が参加されました。テーマに関する専門医として、消化器内科 西山 悟 先生に御指導頂きました。症例選定および全体の構成などについてはリウマチ・膠原病内科/腎臓内科 鈴木が継続して担当しております。
「非専門領域における達成目標は学生、研修医、指導医全て同じ」というコンセプトのもと、参加者全員が今回のテーマの専門医から学びました。
カンファレンスは3部構成で、1. 症例プレゼン、2. 教科書等のまとめ、3. 専門医への質問で進めました。
はじめに陶守先生から自身が経験した高齢者の下部消化管出血症例について提示がありました。解説パートでは、上部消化管出血を含めて疫学、診察上のポイント、緊急内視鏡の適応などについて平易でありながら極めて網羅的な、完璧なまとめを話して頂きました。
臨床上の疑問は初期研修中、毎日10以上は頭の中をよぎっては調べないまま消えていくと思います。これをメモしておくなどして1つずつ解決すると情報検索力も含めて身に付いていきます。例えば「下部消化管出血の原因疾患を頻度も含めて知りたい」と思ったら、どうしますか?試しにAIへ入力してみると、一瞬で多くの情報が得られたものの文献の提示はなく学会発表など公式な場ではやや不足です。UpToDateでは以下の表が出てきましたが頻度が書いてありません。


このような基本的な疫学情報を文献も含めて知りたい場合、痒い所に手が届く本が『ジェネラリストのための内科診断リファレンス第2版(上田剛士 医学書院 2024年)』です。ネット上の検索でもある程度の情報にはたどり着けると思いますが、正確性・網羅性は本書が勝ります。何か知りたいことがある時、他科の基本事項を忘れてしまった時、座右に置いている本の1つです。初期研修中は非常に役立つと思います。
専門医への質問では、緊急内視鏡の適応判断などについて実践的な内容を経験に即してお話し頂きました。消化器内科を専攻した理由の1つに、手技を習得する過程がゲームを上手くなる感覚と似ているというようなお話がありました。これぞ個人の特性が現れている点だと感じました。筆者は上手くなる系のゲーム(パズルゲーム、格闘系とか)が苦手で、上手くなっていく想像もつかずいつまで経っても横ばいの感覚でした。一方、ただやりさえすればできるRPG(ドラクエ世代)には手が伸びました。それでもLv99まで上げて極めたいというモチベーションはなく、そこそこでクリアすると次のゲームへ向かいました。脱線しているようですが、個人の特性/強みというのは大きく変わるものではないので、手技が重要な診療科に進む方は西山先生と似た感覚を持っているのではないかと想像しました。
「質問力」について、前回の再掲です:学会や講演会に出た際にはメモを取るのは当然として、さらに手を挙げないとしても質問を考えながら参加することを勧めます。「そんなの思い付かない」という方に対するヒントは、自分ごととして考えるということです。学んだことを臨床でアウトプットする方法をイメージしながら聞いたり、過去に経験した症例を振り返ってみて診療の質をより上げるにはどうしたら良かったかと考えてみたり…個々に質問力を高めることを意識しながら参加してみて下さい。
研修医にとっても、多くが非専門医である指導医にとっても、各診療科の魅力をアピールして頂ける機会にもなっていると考えますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
また、10/17 大宮で開催された第61回日本赤十字社医学会総会において院長からの提案もあり、「専門医の暗黙知を共有する研修医カンファレンスの立ち上げと運営」というタイトルで口頭発表してきました。専門医の先生方に負担をかけない形式を追及した結果、消化管出血の疫学や初期対応など教科書的な解説は研修医/非専門医が担当し、専門医にしか答えられない実践的な内容を口頭で(スライド作成は求めず)話して頂いています。形式的なスライドによる解説をお願いするよりも、診療経験や普段考えていることをフリートークで伺った方が何となく深みがあると感じていました。前者が形式知(言語化される知識)であるのに対して、後者は暗黙知(「われわれは語れる以上のことを知っている」水面下に大きな暗黙知を抱えている)であり、これを引き出すことができているからこそカンファに深みが出ているのではないかと思われます。日本を代表する経営学者 野中郁次郎氏が組織全体における知識創造の理論としてSECIモデルを提唱されましたが、このスタートとなる職員間が対話する場作りとして本会が機能しているのではないか、とまとめてみました。
文責:リウマチ・膠原病内科/腎臓内科 鈴木 康倫